漫画は当然面白いのですが、実はこの方、文章がとても上手で面白いのです。その中でもお気に入りなのが、最近アップされたこちらの記事。
リク君への愛があふれるとても面白い話でした。面白いものは二番煎じしてみたいのが私の悪い癖(これも二番煎じ…ゲフンゲフン)。
うだまさんにはまるで敵いませんが、マイケル視点の二番煎じを書いてみましたので、よければ折り畳みを開いて読んでみてください。
しっかし私の文章って昔っからくどいやで。(※当然フィクションです。)
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東京都内のとあるマンション。駅から徒歩数分程度の場所に立地している。大猫・マイケルの自宅だ。彼は飼い主と弟猫と暮らす一匹の猫。我々は、この猫の一日を追うことにした。
■大猫の朝は早い
大猫の朝はとても早い。早朝4時半、かれは伸びをして起き上がると、いそいそと食事をはじめた。
――ずいぶん早いですが、毎朝この時間に?
「そうです。この後ちょっとした大仕事があるので、それに合わせて早めに起きるようにしているんです。」
――大仕事?
「ええ、飼い主を起こさなければならないんですが、それがちょっと大変なんですよ。」
何を思い出したのか、彼は神妙な表情で少し耳を倒した。
――ところで、なぜこんな時間から食事を?
「実は僕、お腹が空きすぎると吐いてしまう体質なんです。起き抜けはどうしても小腹が空いていますからね。いくらかお腹に入れておく必要があるんです。飼い主もよくわかっていますから、いつ食べてもいいように足しておいてくれるんですよ。」
そういうと、マイケルは食事を続ける。音を聞きつけて弟猫も起きだしてきたが、こちらは水を飲むだけで満足したようだ。
顔を舐めたりお尻を舐めたり、ふたりそれぞれに身支度を終えると、連れ立って飼い主が寝ている寝室へ移動する。
■一番の大仕事
寝室では飼い主がすやすやと寝ている。マイケルと弟猫が布団の上を歩いても、全く気付かない。足元を確かめるように横断すると、布団から少し離れて待機する。
「いよいよです。」
マイケルが我々に合図を送ってくる。
直後、助走をつけて布団に飛び込んでいった。どうやら布団に向かってフライング・ボディ・アタックを行っているようだ。
マイケルは6kg後半の大猫である。飼い主の身が心配になったが、どうやら直接当たっているわけではないらしい。
続いて弟猫が同じように布団に飛び込む。そしてまたマイケルと、のべ5回近く、ふたりは全力で布団に飛び込み続けた。
――これが大仕事ですか?
「ええ、その前半部分です。」
息を切らして横になりながら、マイケルが答えた。
「一見何も変わっていないように見えるでしょう?でも、飼い主の息遣いが変わっています。動きはなくても、もう起きているんです。すぐまた寝てしまいますけど、ここでいったん起こしておくことが重要なんですよ。」
弟猫も軽く息を弾ませながら横になっている。よほど全力で布団に飛び込んだようだ。
「実は、飼い主に直接当たると、怒って起きて来なくなるんです。ギリギリ当たらないように、なおかつ全力で飛び込む。非常に神経を使う作業です。」
そうしているうちに、居間の方からカラカラと音がしてくる。今まで寝そべっていたマイケルが、急に弾丸のように走り出した。少し遅れて弟猫も飛び出して行く。
――どうしました?
「食事の時間です。日に3回、勝手に出てくるんですよ。飼い主が起きた後にもう少し追加があるんですが、運動の後の食事は美味しいですからね。」
お皿の半分ほどを食べ終わると、ふたりはまた寝室に戻ってきた。今度は飼い主が見下ろせる位置に陣取って、真剣に見つめている。
やがて、どちらからともなく飼い主に近づくと、それぞれ「あっあん!」「にゃーー!」と鳴きながら、腕に頭を擦り付け始めた。
飼い主はだるそうにふたりを撫でていたが、やがて目覚ましが鳴り始めると、むくりと起き上がって「おはようございます。おやつですよ~」と言いながら台所へ向かう。
――ようやく起きましたね
「ええ、今日は5~6回で起きたので、早いほうなんですよ。これでやっと、追加のおやつにありつけます。」
マイケルと弟猫は、飼い主の足にまとわりつくようにしてついて行く。
飼い主は冷蔵庫から袋を取り出すと、それぞれのボウルにウェットフードと歯磨き用のおやつを分けはじめる。弟猫は待ちきれないようで、ニャーニャーと激しく主張している。
――そんなに美味しいんですか?
「ええ、仕事をしたせいで小腹も空きましたし。子どもの頃はウェットフードは苦手だったんですけど、今では食べないと落ち着かないほど好きになりました。」
ふたりが残りの食事を片づけているうちに、飼い主は飲み水を入れ替え、トイレを掃除している。
食事が終わると、マイケルが素早く洗面所に向かう。
――どうしました?
「水を飲むんです。見ててください。」
そういうと彼は洗面台に飛び乗り、「あん!あん!」と鳴き始めた。
飼い主は慌てたようにトイレ掃除を終えると、水道で手を洗い始める。マイケルが何度か彼女の手を引き寄せると、カップに水を汲み分け、改めて手のひらに流し始めた。
マイケルはその水を美味しそうに飲み始める。
「僕は飼い主の手から水を飲むことにしているんです。弟はやらないので、僕だけ特別です。もちろん、普通に水用のお皿から飲むこともできますけど、この飲み方が一番おいしいんです。
真冬にはきちんとぬるま湯を流してくれますし、これに慣れたらお皿からはなるべく飲みたくないですね。」
飼い主の足元では弟猫が不貞腐れながら鳴いている。満足気に水を飲むマイケルの表情は、優越感に満ちていた。
■休憩時間
水を飲み終わると、のんびりと居間にしつらえた寝床に横になる。弟猫は寝室に置いてあるベッドの方に横になっている。
――お疲れですね
「ええ、朝早くからかなり働きましたからね。今日も無事に飼い主を起こすことができましたし、これから夕方までは休憩時間になります。」
安心したせいか、心もち丸くなった顔で、うっとりと目を閉じる。
その様子をみた飼い主が「今日もかわいいね!いい猫さんですよ」などとつぶやきながら、口の周りや耳の後ろなどを丁寧に撫でている。撫でられているマイケルはとても満足そうだ。
そして昼食の時間。
飼い主はカウンターに飛び乗るマイケルと弟猫を何度も下ろしながら、焼きそばを作り始めた。流れるように飛び乗るので、止める隙が見当たらない。
「最初は飛び乗る前に止めようとしていたんですけどね。僕らにとってはこの高さは階段以下です。人間が止めようなんて無理ですよ。」
途中で朝と同様にカリカリが出てきたが、飼い主はそのまま焼きそばを作っている。どうやら追加のおやつはなさそうだ。マイケルと弟猫は飼い主の足元でかなり粘っていたが、飼い主は華麗にスルーして焼きそばを食べ始めた。
ふたりは根負けしたようにそれぞれのボウルに向かった。
――残念でしたね
「まあ、予定調和です。くれる時もあるのでねだっていますが、ほとんどもらえたことがないです。夕方には確実にもらえるので、あまりしつこく粘らないんです。」
――人間の食べ物に興味はありますか?
「正直に言うと、あります。僕らは鼻がいいですからね。すごく美味しいカリカリと同じ匂いのする食べ物があったりすると、気になってしょうがないんです。でもうちの飼い主は、猫に悪いものは絶対にくれません。だから、お呼びがかかるまで我慢するんです。」
食事が終わると飼い主が猫じゃらしを取り出した。マイケルも弟猫も、目を爛々と光らせて飛びかかっている。
「猫じゃらしって、正直すぐに飽きるじゃないですか。うちの飼い主はそれを敏感に察知して、新しいものを買ってきてくれるんです。そこはとても評価しています。」
そのうち飼い主が昼寝を始めると、マイケルとティグも布団の上に陣取った。休憩の間も飼い主の側を離れることは少ない。
――ずいぶん飼い主の側にいますね
「ええ、飼い主は生き物としてはかなり鈍いですからね。まず、暗いと目が見えません。僕たちの縄張りは、狭い。それなのに、よくあちこちに体をぶつけて痛がっています。動きも鈍いですし、どんくさいことこの上ありません。だから、見守っていないと僕が少し不安なんです。
それに、猫は寝るのも仕事の一つですから、寝る時の環境も重要です。
今の時期は飼い主がちょうどいい暖房代わりになるんですよ。監視もできて暖かくてふわふわ。これ以上の寝床はありません。」
■お風呂も一緒
昼寝が終わった後は弟猫と激しいプロレスになった。タンスの上からトイレの隙間と部屋中をかけまわり、ジャンピング・アタックまで飛び出す激しさである。
――ずいぶん激しいプロレスですね
「ええ、弟もそろそろ一歳ですし、下剋上を狙っているんです。とはいっても、僕だって兄としてのプライドがありますし、体重差もまだ1kgほどあります。負けるわけにはいきません。あくまでもスポーツなので、激しく見えても怪我をするような事はないんですよ。」
プロレスが終わるころ、カラカラと食事の出る音が聞こえ、飼い主がおやつの袋を出しに行く。朝と同じような光景が繰り返され、マイケルと弟猫は満足げに食事している。
――休憩の間も食べていたようですが、太りませんか?
「ええ、当然太ります。なので、ロイヤルカナンセンシブルと、ニュートロの低カロリーフードをブレンドしたものを食べています。有名なのはサイエンス・ダイエットで、確かに美味しいのですが、僕が吐き戻してしまうのです。
ロイヤルカナンも低カロリーフードだと戻し気味になるので、何度か試した結果、このブレンドに落ち着きました。美味しいほうがいいに決まっていますが、吐き戻すのもなかなか辛いですからね。今では納得して食べています。」
ふたりが食事をしている間に、飼い主はお風呂に入るようだ。
ドアの開く音を聞きつけた弟猫が走りこんでいき、風呂蓋の上でお腹をみせている。マイケルは脱衣所のかごに陣取った。
――お風呂場にはいかないのですか?
「僕は行きません。たまに行って湯船の水を飲んだりしますが、僕は毛皮や足がびしょびしょになるのが嫌いなんです。弟は毛皮が濡れてもあまり気にしないので、かならず蓋の上でゴロゴロしますね。」
お風呂場の蓋の上では弟猫がおなかやあごをギュウギュウ撫でられてウットリしている。やがて、弟猫も外に出された。
脱衣所では同じかごにマイケルと弟猫が入り込み、ギュウギュウの状態で毛づくろいをしている。
――狭くないですか?
「狭いですが、猫というのはそもそも狭いところが好きですからね。このかごは僕と弟のお気に入りなんです。ここに入ったままプロレスをすることもあるんですよ。」
そういうと、マイケルは弟猫の毛づくろいを始めた。弟猫は少し迷惑そうな顔をしているが、おとなしく毛づくろいされている。マウントも兼ねているようだが、反抗するそぶりは見えない。どうやら兄弟仲はいいようだ。
やがて、飼い主が居間へ移動すると、ふたりとも後をついて行く。驚くほどの仲の良さである。
■深夜の見回り
居間では3人が思い思いの場所ですごしている。
マイケルは飼い主のすぐそばのクッションが定位置のようだ。時折飼い主が背中を撫でると、マイケルはいかにも当然というように目を細める。
弟猫は少し離れた場所にある猫ベッドの中からふたりを見ている。
やがて、飼い主が布団にはいると、マイケルと弟猫は今日初めて飼い主から離れて居間に残った。
――一緒に寝ないのですか?
「ええ、まだ最後の見回りが残っていますから。それまではこの場所でウトウト過ごすのが日課なんです。」
――まだ日課が?
「飼い主が寝入ってから、また部屋を一周して、異常がないか確かめます。特に何かあったことはないんですけど、癖のようなものですね。
そのあと気が向いたら飼い主の布団の上で寝たりします。飼い主は寝相が悪いんで長時間はむりですけどね。」
――中々ハードな一日でしたね
「そうですね。でも、これは飼い猫の義務であり、お役目だと思っているんです。
人間たちは『飼い主がペットとして好みの猫を選んだ』と思っているでしょう?実は違うんです。猫が飼い主の人間を選んだんですよ。」
――本当ですか?
「本当です。どうやって選んだのか忘れてしまいましたし、もし覚えていても教えることができないんですが、僕が今の飼い主を選んだことだけは、はっきり覚えています。
だから、ただ可愛がられるだけでは足りないんです。僕の体調も、飼い主の体調もきちんと調整して、望んだ生活ができるだけ長く続くようにしなくてはいけません。
猫というのもなかなか難しい職業なんですよ。まあ、飼い主は『ただ可愛がられていればいいのよ』って言ってくれるんですけどね。」
そう言ったマイケルの耳がピンク色に染まっている。どうやら照れているようだ。
やがて、うっそり起き上がるとゆっくり縄張りを一周し、飼い主の様子をうかがう。その姿には、猫としてのプライドが満ち溢れていた。
しばらくすると、彼は安心したようにため息をついて居間の寝床に丸くなった。弟猫はすでに寝息を立てて寝ている。
大猫、マイケル。
彼の明日はまた早い。
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